大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)298号 判決 1966年3月30日
控訴人(被告)
田中貴美夫
法定代理人後見人
田中治良太夫
代理人
池口勝麿
被控訴人(原告)
室屋覚男
代理人
狩野一朗
他一名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求め、なお本訴請求中金員の支払を求める部分の訴を取下げた。《以下、当事者双方の主張、立証関係省略》
理由
一、先ず職権により本件控訴の適否について審査する。
本件記録によれば、原審被告田中治臣に対する原判決正本の送達は昭和三七年一一月一九日公示送達の方法によつてなされ、右送達の効力が生じたのは同年一二月四日であること、しかるに本件控訴状が提出されたのは昭和三八年二月二二日であることが明らかであるから、本件控訴は法定の控訴期間経過後の提起にかかるものと言わねばならない。しかしながら本件記録を調査すると、本件訴状は昭和三七年六月三日「豊中市熊野町四―七四」において治臣に対し郵便による送達がなされ、原審最終口頭弁論期日(同年七月一二日)の呼出状は同年七月八日「奈良市菩提町一、一一二」において治臣に対し郵便による送達がなされ、右期日において治臣不出頭のまま口頭弁論が終結され、同年八月一四日原判決が言渡されたこと、ところが原審裁判所は治臣の本籍地である「豊中市熊野町四丁目七九番地」を同人の住所として判決書に表示し原判決正本を同所に宛てて郵便により送達したためそれが送達不能となつたこと、そこで原告(被控訴人)において治臣の住所、居所その他送達すべき場所が知れないことを理由として、治臣の戸籍謄本一通を疎明資料として添付した上公示送達の申立をなしたところ、原審仮処分は治臣の所在について何らの調査をもなさず、また最終口頭弁論期日の呼出状が「奈良市菩提町一、一一二」において現実に送達されている点をも看過して軽々に右公示送達の申立を許可し、これに基き前掲公示送達がなされたものであることを認めることができるところ、控訴代理人弁護士池口勝麿提出の上申書によれば、治臣は、昭和三八年二月初旬頃同弁護士に本件訴訟の経過の調査を依頼し、その調査結果の報告により同月一七日初めて前記判決言渡、公示送達の事実を知つたので、右公示送達は住所不明でない者に対しなされた違法、無効のものであるとして、同月二二日同弁護士に訴訟委任をして本件控訴申立の手続をとらしめたが、翌二三日交通事故により死亡したことが認められる。
右の事実によれば、本件公示送達は裁判所の許可に基きなされたものであるから、たとえ許可の要件事実を欠如していたとしても、これを以て無効の送達であるとは云いえないけれども、治臣は前記最終口頭弁論期日の呼出状が「奈良市菩提町一、一一二」において現実に送達されている事実よりして自己の住所が同所に存することを原審裁判所が既に覚知しており、爾後の送達は当然同所へなされるものと信じ、判決の送達が公示送達によりなされようとは全く予想していなかつたものと考えられ、またかく信じたこともあながち無理とは認められない点と、本件公示送達か本人の現実の居住地を管轄する裁判所以外の大阪地方裁判所においてなされている点とに鑑みると、同人が本件公示送達の事実を知らず、控訴期間を徒過したことについては、訴訟係属事実の了知にも拘らず過失がなかつたものと解し、権利保護の機会を与えるのを相当と認める。
しかして、治臣は原判決送達の事実を知つた時から一週間以内に本件訴訟の提起をなしたものと認められるから、前提控訴期間の懈怠は民事訴訟法第一五九条により追完され、本件控訴は結局適法と認むべきである。《以下省略》(岡垣久晃 岩本正彦 奥村正策)